筑波音響  /  Tsukuba Onkyo

Akadem Drive AD-1 マニュアル

回路をサンプル単位で解くサチュレーター

これは何か

AD-1 は5つの実在する回路を、1サンプルずつ数値的に解いて音を出します。 歪みカーブを近似したり、波形テーブルを引いたりはしていません。 つまみを回すと回路の中の部品の値が実際に変わり、その回路の解が変わります。

そのため、つまみの効きかたは回路ごとに違います。 同じ「BIAS」でも真空管ではカソード抵抗、トランスでは直流偏磁量を動かしていて、 上げたときに歪みが増えるか減るかも回路によって逆です。 これは作り込みが足りないのではなく、その回路がそう振る舞うからです。 下の「BIAS」の項に実測値を載せてあります。

入れかた

配布物に入っている install.command をダブルクリックしてください。 何を入れるかを表示してから確認を求めます。管理者パスワードは要りません。

署名がありません。 AD-1 には Apple の Developer ID 署名がないため、 macOS はダウンロードしたファイルに「隔離」の印を付けます。そのままでは DAW が読み込めません。 install.command は、いまコピーしたバンドルに対してだけ xattr -dr com.apple.quarantine を実行してその印を外します。他のファイルには触れません。

手でやりたい場合は、コピーしたあとに同じコマンドを自分で実行しても同じ結果になります。 手順とスクリプトの中身は入れかたに書いてあります。

入る先はユーザ領域だけです:

~/Library/Audio/Plug-Ins/Components/   Audio Unit
~/Library/Audio/Plug-Ins/CLAP/         CLAP

パネル

PRESET

つまみ列の上の窓です。 で工場出荷の18個を送れます。 つまみを1つでも動かすと表示が USER に変わります — これは番号を覚えているのではなく、毎回つまみの値から引き直しているためで、 セッションを開き直しても、ホストのオートメーションで動かしても正しく出ます。

CIRCUIT

解く回路そのものを選びます。切り替えると回路を組み直して動作点が落ち着くまで 温めてから差し替えるので、切り替えの瞬間に雑音は出ません (この作業はオーディオ処理とは別のスレッドでやっています)。

表示回路歪みの出どころ
TRIODE12AX7 カソード接地 / Ra 220k / B+ 300Vグリッド電流。過大入力で正側が潰れ、結合コンデンサに電荷が溜まる
PENTODEEF86 五極管 / Ra 100k / Rg2 1M / B+ 300Vスクリーン電流によるサグ。5回路で一番深く歪む
GERMANIUMAC128 相当 PNP コレクタ帰還 / −9Vゲルマニウムの低い順方向電圧と ICBO 漏れ
IRON1:1 トランス / Lm 10H / Φs 90µWb磁化インダクタンスの飽和と残留磁束。低い音から先に潰れる
OP-AMPTL072 + 1N4148 対向クリップ / Rf 51kダイオードクリップとスルーレート

DRIVE

入力段に入れる電圧です。回路ごとに飲める電圧が違う (真空管は数ボルト、 ゲルマは 0.45V) ので、その上限を 100% とした指数カーブになっています。 つまみの下に実際の利得が dB で出ます。

BIAS

回路ごとに動かしているものが違い、向きも違います。 つまみの下に実際の値と単位が出ます。

回路単位動かすものBIAS 0%BIAS 100%
TRIODERkカソード抵抗2次 1.3%2次 4.2%
PENTODERkカソード抵抗2次 7.7%2次 6.5%
GERMANIUMRbコレクタ帰還抵抗2次 19.8%2次 8.5%
IRONΦoff直流偏磁量2次 12.2%2次 0.0%
OP-AMPRasym片側ダイオードの直列抵抗2次 0.06%2次 2.0%

2次高調波は左右非対称さの目安です (1kHz・DRIVE 35% での実測)。 TRIODE と OP-AMP は上げるほど非対称になり、GERMANIUM と IRON は逆、 PENTODE はほとんど動きません (PENTODE で効くのは非対称さではなくサグです)。 揃えることもできますが、それは回路がやっていることを曲げることになるのでしていません。

TONE

出口の RC ローパスです。2.2nF と直列抵抗で 402Hz 〜 20kHz。 つまみの下に実際のカットオフが Hz で出ます。

MIX

原音と処理音の比です。原音側は処理側のレイテンシぶん遅らせてあり、 極性も揃えてありますので、中間に置いても打ち消しは起きません。

OUTPUT

−24 〜 +24 dB のトリムです。MIX のあとに掛かります。

SOLVER

回路を解く内部レートです。数字はオーバーサンプリング倍率で、 下に実際の内部レート (セッションのサンプルレート × 倍率) と積分法が出ます。

48kHz での内部レート折り返し実時間比 (最悪)
×296 kHz−31.0 dBc27×
×4 (既定)192 kHz−42.8 dBc15×
×8384 kHz−41.1 dBc

折り返しは 7kHz を DRIVE 100% で入れたときの最悪値です。 ×8 は ×4 の上位互換ではありません。 実測では ×4 → ×8 で良くなるのは OP-AMP だけ (−43.9 → −58.6 dBc) で、TRIODE・PENTODE・IRON はわずかに悪化します (段数が増えるぶん内挿とデシメーションの漏れが積み上がるため)。 迷ったら既定の ×4 のままで構いません。

LOCK / OVER

LOCK は緑が正常です。回路の解が収束しなかったサンプルがあると消えます (そうなると歪みではなくノイズが乗ります)。OVER は出力が振り切ったときに点きます。

ENGAGE / BYPASS

ホストのバイパスそのものです。ホスト側のバイパス釦とパネルのトグルは同じものを指しており、 二重にはなりません。バイパス中もレイテンシは変えないので、他のトラックとの位相はずれません。

レイテンシ

5サンプル固定です。サンプルレートにも SOLVER の設定にも依りません。 ホストに申告しているのでホストが自動で補正します。

SOLVER を変えても申告値を変えないのは、CLAP では処理中にレイテンシの変更を 通知できず、変えるたびにホストの遅延補正が組み直しになるためです。 足りないぶんは内部で埋めています。

書き出し (バウンス)

ホストがオフラインレンダリング中だと言ってきたとき、AD-1 は自動で:

上限は実時間の締切に間に合わせるためのもので、書き出し中は締切がありません。 段の違いは折り返しの量にしか出ない (出力レベルも歪みの量も動かない) ので、 書き出しで変わるのは「消したかった副産物がより消える」ことだけです。 操作は要りません。

ファクトリープリセット

18個入っています。すべて音量を揃えてあります — 1kHz・−6dBFS の入力に対して素通しと同じ出力になるよう実測で調整してあり、 最大ずれは 0.05 dB です。切り替えても音量が跳ばないので、性格だけを比べられます。

数字は各つまみの位置 (%) です。

#名前回路DRIVEBIASTONEMIXねらい
01CONSOLE WARMTRIODE30458010012AX7 の浅い所。艶だけ乗せる出発点
02VALVE PUSHTRIODE688072100BIAS を上げて h2 を増やす。TRIODE は上げるほど非対称
03GRID BITETRIODE959562100グリッド電流まで追い込む。正側が潰れて結合容量に電荷が溜まる
04BROADCASTPENTODE405078100EF86 を軽く。密度だけ上がる中庸な設定
05SCREEN SAGPENTODE723570100スクリーン電流でサグらせる。叩くと沈んで戻る
06PENTODE SLAMPENTODE1002060100振り切り。PENTODE は5回路で一番歪む (THD 50%)
07CLEAN GEGERMANIUM288582100BIAS を上げて対称寄りに。ゲルマの色だけ
08TRANSISTOR GRITGERMANIUM554572100中間。ICBO 漏れの落ち着かなさが出る辺り
09FUZZ BIASGERMANIUM85555100BIAS 最小 = 浅いバイアス。h2 が 32% まで出る
10IRON COREIRON603085100磁化飽和。φ=∫v dt なので低い音から先に潰れる
11DC SKEWIRON80075100偏磁最大。コアを片側に寄せて2次を出す
12SYMMETRIC COREIRON4510088100偏磁ゼロ = 完全対称。2次が消えて奇数次だけ残る
13DIODE CLIPOP-AMP7010701001N4148 の対向クリップ。BIAS 最小で左右対称
14ASYM DRIVEOP-AMP789068100片側に直列抵抗を入れて非対称に。OP-AMP は上げるほど偏る
15SLEW EDGEOP-AMP1005090100TL072 のスルーレートに当てる。速い立ち上がりだけが鈍る
16PARALLEL HEATTRIODE90856635潰した音を MIX 35% で下に敷く。芯を残したまま密度だけ足す
17BUS GLUEIRON306088502mix 用。トランスを薄く、MIX 50%
18VOCAL AIRTRIODE45609580TONE を開けて上を残す。声の前を少しだけ出す

対応ホスト

形式ホスト
Audio UnitLogic Pro / GarageBand / MainStage
CLAPReaper / Bitwig Studio / Studio One 7 以降

VST3 版はありません。 技術的な都合ではなく、ライセンスの都合です。 VST3 を出すには Steinberg の VST3 SDK か、そのバインディングが必要で、 どちらも GPLv3 か商用ライセンスです。GPLv3 で配ると、AD-1 が使っている回路ソルバごと ソースを公開する義務が付きます。AD-1 は無料ですがオープンソースではないので、 その義務を負えません。

Ableton Live と Cubase をお使いの方へ。 現状 AD-1 をお使いいただけません。Live は CLAP に対応していないためです。 申し訳ありません。Studio One は 7 以降なら CLAP で使えます。

Pro Tools にも対応していません。 AAX 版はありません。

仕様

チャンネルモノラル / ステレオ
レイテンシ5 サンプル (固定・申告あり)
内部処理64bit 浮動小数点
サンプルレートホストに追従 (44.1k〜192k で確認)
負荷×4 で最悪 15× 実時間 (Apple Silicon・1インスタンス・48kHz)
動作環境macOS 11 以降 / Apple Silicon および Intel

困ったときは

サポートを見てください。よくある症状と対処を載せています。 解決しないときは support@tsukubaonkyo.com まで。